「編集グループSURE」の代表的なシリーズが、「セミナーシリーズ 鶴見俊輔と囲んで」と題されるこちらです。哲学者・鶴見俊輔氏を軸に据え、毎回ゲストを招いて学問談話を行う薄手のブックレットですが、その中身の濃さは見た目をはるかにしのぐもの。専門分野から雑談にまで、縦横無尽に話の枝葉はのび、愉快な横道にそれてゆくのは読んでいて実に楽しい。鶴見氏から繰り出される質問のユニークさ、同席した若い人々からの反応など、薄いながらも読者にとっては実り多いこのシリーズ。実際に編集部の事務所で車座になって自由に話したという、座談会の持つ本来の楽しさが発揮されているのも魅力です。第3回の本書は、法哲学者・那須耕介氏によって語られるある女の「選び直した生き方」について。昭和30年代、単身北海道の最果てへと向かい、そこで地域に身を埋め暮した茅辺かのうという一人の女性。かつてはアナキズム運動にも身を投じた彼女が、すべてを捨てて選択した新しい人生とは? 壮絶な女の一生の軌跡をめぐった本書は異色の女性論ともなっており、読者の様々な想像力を刺激し読み応え充分。女性にも男性にも是非読んで頂きたい一冊です。
著者:那須耕介 / 出版社:編集グループSURE / 装幀:北沢街子 / 148mm x 210mm / 80P / 無線綴じ冊子