京都生まれ京都育ちの著者が遍歴を経て京都に戻ってきた。小さな女の子と二人で…。本書では、シングルマザーとして、そして心を患いながらも子育てに奮闘した一人の女性の姿が一人称で描かれています。静かな筆致のなかにもにじむ苦しみや悩み。保育園、ご飯の支度、自身の治療。そもそも何もなくとも子どもを育てるというのは大変なもの。そこに病をはじめ様々な要素が絡んで大変さはさらに増し。それでも著者の北沢さんの芯の強さ、どこか飄々とした不思議な雰囲気、目の前の出来事を受け止める柔軟さ、そういった要素も含めて独特の魅力がこのエッセイからは伝わってきます。短い文章のなかに織り込まれる具体的なエピソードの数々も、淡々としたその語り口を通してみると奇妙なユーモアと哀しみとに彩られて。事情も暮らしも環境も人はさまざま。自分だけの子育てを綴りながらも、どこかの誰かに届けばいい。小さな声でささやいた手紙のような一冊です。