「まずもって、あの夫というやつは臆病すぎる。
合理的であるということを隠れ蓑に、ただ予期せぬものの訪れを怖がっているだけ。
なんだい、なんだい、びびりやがって。くされチキンがよ。
だいたい、すべて計画通りの毎日なんてつまらないじゃないか。(中略)
そのくされチキンがある日、なんの前触れもなく急須を一式買って帰ってきた」
(本文より)
編集者・北尾修一さんを主宰とする百万年書房の新レーベル「暮らし」第四弾目。今回の書き手は詩人・国語教室ことば舎代表の向坂くじらさん。
初の散文集におさまるのは、他人の目に留まることを恐れず紡がれた率直でストレートな想い。日々観察し、考察する夫という存在、その人のとる言動。おもしろおかしく、別に思い返さなくても良くて、でも抱えていられると尚うれしい出来事。裏側にある意味を汲み取ろうとせず、ただ目の前に並ぶことばを目と頭の奥に焼き付けて欲しい。「他人」という存在と共に暮らすうえで生まれる細やかな思考に光をあてた、はっと目の醒めるような、リズミカルで闊達な一冊。(韓)