画家・平田基による初の単著、鉛筆と消しゴムのみで制作された漫画作品集。曖昧模糊の同義語である「雲煙模糊」という名の通り、夢や無意識の境界からはみ出したような漫画とショートエッセイの数々。
平田さんの描く世界で、大陸は移動し、森は横断歩道を渡り、雲は草にひっかかって棚引いている。途方もなく遠い、となりの星の未来のような場所であり、世界の果てのようなさびしさが漂っている。うっすら孤独であるし、かたちは歪で奇妙である。
住みたいというのではないけれど、並行世界としてそんなに遠くない距離に在ってほしいと願ってしまう。
それは鉛筆画ならではのタッチや、ひとコマの中の些細な描写(例えば木の実の落とし方、珈琲からたち昇る湯気や人の吐息のかたち、観葉植物の幹のうねり)に、自然や人への愛しみが、ささやかに溢れているからかもしれません。
描くことを通じて、人類の生命に関する、恐らく答えの存在しない根源的な問いに向き合い続ける画家が創り上げた、瑞々しい一冊。
函入りの仕様や和紙のような表紙のシルバーインクなど、こだわりの装丁も美しい。(藤林)
出版社「さりげなく」
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京都・左京区の「花辺」を拠点に活動すつ、若き編集者・稲垣かのこさんが立ち上げた出版社。自由な発想からつくられる、コンセプチュアルな本にいつも驚かされてしまいます。