台湾滞在記『馬馬虎虎(マーマーフーフー)』の檀上 遼さんの新著は、「誰からも愛される不思議な国」タイとその隣国ラオスをはじめて旅した2018年の十日間の旅行記。
90年代から2000年代前後のバックパッカーブームで旅行者には「聖地」と呼ばれた彼の地に憧れを抱きつつ、ファンタジーやノスタルジーをそこに見出し一方的に消費する立場には反発を覚えていたという著者。インターネットの台頭やコスト低下もあり、近年ぐんと近くなった東南アジアをあらためて一旅行者として訪れ、帰国後のコロナ禍の日本で旅の記憶を反芻しながら書かれたという本書は、現地で起こる数々のユーモラスな体験のレポートでありながら、迷いや疑いも含め「旅をすること」を考察したその後の二年近くの時間の記録でもあります。異文化の中を通り過ぎること、均質化する世界でそれでも観光に出かけること。そして、その後も考え続けること。情報速度が加速化する一方の世界でなお「遅い」メディアである本として手に取ることに意義を感じさせる内容と佇まいの一冊です。(涌上)