家族、子育て、日々の暮らしの中に起こる様々な大小の事ども。そして自分自身の感情と思考と視線。それらを丹念に拾い上げつつ肩肘の張らないソフトな文章で綴った、こちらは梶谷いこさんによるエッセイ集です。なによりこの本がユニークなのは、ひとつひとつのエピソードには必ず昭和の名脚本家・和田夏十（わだなっと）の言葉が添えられていること。少し古い映画の中に生きた言葉を今の自分と重ね合わせ、新たな発見を得たり腑に落ちたり。独りごつそのささやかなつぶやきを読者と共有しつつ、やはり自分だけの世界も守る、矜持にも似た潔さとゆらぎをすっきりとした文章から感じます。読んだあとは映画を見たくなる。発行は京都の書店・誠光社から。