詩・谷川俊太郎、写真・今村昌昭、そしてアートディレクションには初期創元推理文庫装丁を多く手掛けた日下弘と、今ではなかなか望めない布陣で作られた科学絵本の傑作『こっぷ』。表紙にはひとつのコップを見つめる少年の顔。ガラスの屈折で歪む彼の顔は好奇心に満ちています。そこから谷川俊太郎が、コップの姿、コップの能力、コップの用途などなどを簡潔かつ幼い心の胸に響く言葉でつなげます。写真におさめられた数々のコップの表情は実にゆたかで、そしてデザインの美しさには子どもでなくとも見とれてしまいそう。何よりも、身近な材料を使って、この世の仕組みのひとつを「ほらみてごらん」と子どもに教えてくれるその優しさが大きな魅力です。他の科学絵本や知育絵本にはないきらめきが秘められた本書。1971年に雑誌「かがくのとも」の一冊として刊行され、その後傑作選に入り書籍化され、2000年代に再び復刊された名作をどうぞお楽しみください。