『シャイニング』にも影響を与えたという、シャーリイ・ジャクスンの最高傑作。怪奇現象が起こるとされる「丘の屋敷」での調査に招待された主人公。人生に疲れていた彼女が、新しい体験を望んでその誘いに応じたところから物語は始まります。そこで起こる奇妙な出会いと数々の心霊現象。作者の筆は、それらの事件を淡々と綴り、屋敷の持つ「魔」にゆっくりと取り憑かれていく一人の女の姿を冷静に残酷に写し出します。それはまるで、彼女の意識の流れを繰り返し読者に見せる事で、恐ろしい揺さぶりをかけるかのよう。ルームメイトの女友達との会話、朝の目覚め。得たいの知れぬ狂気に支配されてゆく主人公の心象風景が、そんな何気ないふとした瞬間にあらわれる時、それはむしろ実際の心霊現象の場面よりも読者にとっては恐ろしい。ホラー小説としても文句なく素晴らしい本書ですが、主人公の女性の心理描写からはホラー以上の「ぞくぞくするもの」を感じずにはいられない、あらゆる意味で不朽の名作です。
著者:シャーリイ・ジャクスン 渡辺庸子 訳 / 出版社:創元推理文庫 / 105mm x 150mm / 332P / ソフトカバー