ある日、自分とそっくりな男の子を見かけた主人公の「ぼく」は、その子を追いかけて不思議な夢の世界へ迷い込みます.....。本書は星新一の新潮文庫作品の中でも、長くそして密かに愛されてきた純粋かつ正統なファンタジー。人の見る夢の中へ迷い込んでしまう奇妙な世界へ放り出された男の子が、命や愛、人の優しさや悲しみ、人間としての大切な仕事など、様々な事を学んでゆく成長物語です。SF作家らしい作者のイマジネーションとトリッキーな仕掛けが素晴らしく、ともすれば甘いだけになりがちな「夢の世界」という設定を、子供たちそして大人たちへ向けた愛ある眼差しと共に、深い余韻を含む物語に仕立て上げています。また文中には、以前の装幀のなごりである初山滋の挿絵が多く残され、よりいっそう美しい夢を見る者に与えてくれる事でしょう。初出は昭和46年、新潮社から書き下ろされた『だれも知らない国で』。いつまでもこの本が長く読まれ続ける事を祈って、日本の優れたSF作家が生みだした本物の夢物語を愛らしい文庫でお届けします。
著者:星新一 / 出版社:新潮文庫 / 213P / ソフトカバー / 105mm × 150mm