画家、今井麗の作品集。2022年、ニューヨークでの初個展となる「Karma Gallery」で開催された展覧会に伴い刊行された一冊。
花々の中には人形が添えられ、熟れすぎたバナナと金のテディベアが溢れんばかりの輝きをまとい、スターウォーズのフィギュアがあぜ道を立ち阻み、月光が木の枝にかかり、鹿が森の前で立つ。その淡く繊細な絵画は、素早く迷いのないストロークによって、優美な現実を描き出しています。作者はこの現実における被写体を記憶として留め、壮大なスケールをもって、鑑賞者を自身の世界観に引き込みます。日常が非日常となる儚い瞬間の移り変わりが丁寧に描かれ、「何気ない細部にこそ、その真価は発揮される」という誰もが必要としていることを思い出させます。
日々の生活の中で、時々心を掴まれるような印象的な場面に出会う。
放置されたおもちゃに当たる西日、通り過ぎて行く木々の隙間に見える澄んだ夜空、窓の外で風に揺れる庭。
それは決して特別な場所じゃないが、
様々な偶然の一致でバランスがはまった時に、ドラマチックな場面になる。
まるで入念に準備された映画の場面のように。
その一瞬は過ぎて、二度と戻らない。
私はそんなシーンを描きたい。
四季の繰り返しは、人々にほとんど変わらない風景を見せ、過ぎ去る日々に懐かしさを感じさせる。
私は懐かしさを彷彿とさせるモチーフを描く事が多い。
彼らは何世紀を経ても変わらない姿を私たちに見せてくれる。
私は、彼らに役者のような役割を与えて場面に登場させる事で、
観る人は絵の中の印象的なシーンに立ち会っている気持ちになると感じている。
−今井麗