自分の育った古い家。その家の奥にずっとしまってあったちいさな舟。その舟はむかし水害があった時にみんなを救ってくれたという…。本書は、絵を担当した熊谷誠さんの生家の解体に伴ってあらわれた一艘の舟、その舟にまつわる話を元に編まれた絵本です。眠る様に横たわる舟を鉛筆やアクリル絵の具で丁寧に描き出し、その静謐な佇まいにみられる独特の陰影はどこか寂しくそして美しく。最終ページ、暗い家の中から明るい夜明けへの鮮やかな転換からはささやかな希望の姿が感じられ、読む人を柔らかく包みます。古い家に宿る家族の記憶を優しく呼び覚ます不思議な絵本。暗さ、静けさ、穏やかさ、優しさ、懐かしさなど、様々な手触りに満ちた一冊です。発行は、本書が最初の刊行物となる、京都・伏見を拠点とするUEMON BOOKSより。古いラベルを模したかのような裏表紙のバーコードデザインや古物をモチーフとしたおまけの蔵書票など、細部へのこだわりと絵本への愛が感じられる作品です。
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