あたしは、大抵のひとが十年に一度見る見ないかの月、そしてそれよりももっと見られない満月を愛してる。
けれど、その美しさを知る人類は、これからだんだん減ってゆくことを、あたしは知っている。
そんなものに、本当の価値があるのか、わからなくなるときもある。
本物の月はだんだん、そのありがたさだけが残って、そう、例えばグレープフルーツにとって代わられちゃうんじゃないかな。
(「グレープフルーツ・ムーン」より)
歌人・橋爪志保による初の小説集。第60回文藝賞短篇部門・二次予選通過作を含む5篇の短篇小説を収録。積み重ねゆく現実か瞼の裏で思い描く空想か、枠組みにはまらない、現在と過去を行き交いながら展開されていく個々の物語。瑞々しい感性の光る一作をお手元でぜひ。(韓)
【収録作】
「泥眼鏡」
「咳をしたら五人」
「崖の絶壁」
「グレープフルーツ・ムーン」
「エナジードリンク・ブギウギ」