映像作家・故デレク・ジャーマンが手掛けたある庭。原子力発電所にほど近いイギリス南東部の岬に作り上げたその楽園は、彼が遺した最後の作品であり、同じく遺作となった本書もまた多くの人々の心を捉え続けてきました。最果ての枯れた土地にひとつひとつ植物を植え、道具を揃え、石を配置する。まるで灯をともすように、さまざまな要素を自分自身の分身とも呼べる庭に埋め込み命を吹き込む。本書では、自身のエッセイと友人である写真家ハワード・スーリーによる写真とが合わさり、この庭を形作る精神の奥にも触れられるような静謐なイメージが全編を流れています。荒涼とした風景と独自の美意識で構築された庭との対比の鮮やかさ、不思議な穏やかさ。庭を作るという行為の純粋な悦びと恩寵。ひとりの人間の生と死がひとつの庭に映し出された今なお不思議な魅力を放つ美しい一冊。本書は旧版から約30年を経ての待望の復刊であり、ジル・クレマン著『動いている庭』などの翻訳でも知られる庭師・山内朋樹氏による新訳版となります。