本書は、同時に、料理の風味をかたよりなく楽しむ方法を示したつもりでもあります。
おそらく、類書とのちがいがあるとすれば、本書が提示しているのが、
なんでもおいしがる方法である点です。
「自分とはちがうべつの誰かの感性がきわめて具体的に綴られた痕跡」として料理本を読み、料理本批評という稀有なジャンルを誕生させた映画評論家・三浦哲哉さん。全26の章立ての中で提案されるのは、「今週は○○を作ります」からはじまる、自炊を楽しむうえで欠かせない「風味」をよく知るための実践。26週間=約半年間お読みいただける形式となっています。「蒸す」「焼く」「煮る」「揚げる」「切る」といった具体的な調理法を掲げ、それぞれの調理法から生まれる「おいしさ」の周辺に浮かび上がる、五感を刺激する事象について。どうしておいしく感じるのか、どうすればおいしく感じられるのか、それに至るまでに緻密に計算された温度、時間、必要な組み合わせ、調味料の選び方、自分の好みに合うお店(買い物先)を定める方法。さらにはシミュレーションのための台所 / 動線の整え方まで。科学的な視点と共に実際のレシピをも交えながら展開されていきます。いつもより少し気を配って、少し深めに息を吸い、いつもの料理を口に含みたくなる。好奇心を持ち、手を動かし、知り、気づくことの楽しさを呼び覚ます、どこまでも奥行きのあるまばゆさがここにあります。(韓)