自分の生活を大きく変えたかったから、いままでとはまったく環境の違う、三浦半島の葉山に引っ越すことに決めた。
美術作家であり文筆家・永井宏さんが立ち上げた「サンライト・ラボ」から2001年に刊行された小説集の復刻版。東京から葉山に移住してきた一人の女性の日々を淡々と綴った穏やかな連作短編ですが、軽やかな文体の中に垣間見える多様な思索と柔軟な価値観は、どんな時も色褪せず。40代の男性を主人公とした同時収録の短編「砂浜とボート」でも、葉山の土地と海を舞台に静かな人間模様が描かれます。サラリと洒落ていて、爽やかで、少し淋しく、少しまぶしい。刊行当初の趣もそのまま、鎌倉・湘南の土地に根ざしたアート活動を続けた永井さんの作品がまたふたたび今の読者の手にわたるのは嬉しいことです。軽く美しい造本はこちらも「信陽堂編集室」によるもの。