まさかこれが自分の生活なのか、とうたがいたくなるときがあります。
それは自分にはもったいないようなしあわせを感じて、という場合もあれば、
たえられないほどかなしくて、という場合もあるのですが、
それはもちろん自分の生活であるわけです。
その自分の生活というものを、つまりは現実を、べつだん、大げさにも卑屈にもとらえず、
そのまま受けいれたとき、みえてくるのは「ほのおかしさ」ではなかろうかと思います。
ままならない生活にころがる「ほのおかしさ」を私はずっと信じています。
思うようにはいかない、けれどたしかに瞬いている生活を素直におさめた、当店でもたくさんの方に手にとっていただいたリトルプレス『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』。作家・小原晩さんによる待望の書き下ろしエッセイ集が大和書房より刊行されました。
ひとりで暮らした日、近しい他人と暮らした日、ときには場所を変え暮らした日。映画でもドラマでもないけれど、どこか劇的で淡々としている、すこし不格好でへんてこな毎日。だれかに分かってもらえなくてもいいちょっとしたことで浮かれるし、嬉しがり、あきれ、落ち込み、笑い泣きする。本書に収録されているのは小原さん自身の生活の記録ですが、同じように読み手のわたしたちの日々にもなり得るように思います。生活の中で汲み上げたわずかな光を真摯に、ときにユーモラスに描きあげた一冊。(韓)