地図や迷路といったモチーフを織り交ぜ、精密なタッチで世界を描くチェコスロヴァキア(現チェコ共和国)出身の作家、ピーター・シス。
画面いっぱいに広がる空想世界、細部に至る点描には、シス自身が子どもの頃に怪我で寝たきりになったときに、本のイラストを隅々まで眺め過ごした経験によるもの。
その創造豊かな筆致には、歴史的背景や事実調査などを含む、膨大な時間をかけた制作の背景があります。
そして、シス自身の心にある権利と自由を求める社会への怒りや憤り、自身の探求といったものの陰影が空想世界への鍵となり、多重で彩りある表現世界の扉を開きます。
巻末の翻訳家・柴田元幸さんとの対談や学芸員や研究者による、チェコの絵本文化のバックボーン、ピーター・シスのアイデンティティに迫るテキストも必読。
図案美しくページを開くわくわくと、非常に読みごたえがある丁寧なテキスト、それぞれのかけがえのない仕事を残す情報豊かな1冊となっています。(原口)
ピーター・シス
1949年、チェコスロヴァキアのブルノ生まれ。プラハ工芸美術大学とロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学ぶ。新聞、雑誌、書籍のほかに、アニメーションの分野でも幅広く活躍。ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、ボローニャ国際絵本展金賞、コールデコット・オナー賞など、数々の賞を受賞。日本では『三つの金の鍵ー魔法のプラハ』『かべー鉄のカーテンのむこうに育って』『マドレンカ』『星の使者―ガリレオ・ガリレイ』などが翻訳出版されている。(版元より)