「笑顔って何か特別な現象だね」
ペンキ職人の青年と一匹の老犬「雨犬」の暮らし。静けさのなかに漂う優しさと少しの哀しみを、詩情豊かに綴った物語です。雨の日に出会った一人と一匹のつつましくも豊かな光景が、雨犬の視点で淡々と語られる言葉は詩のようでもあり散文のようでもあり。音楽や映画や文学の断片が少しずつ埋め込まれ、彼らのストーリーに奥行きが生まれます。作者は未明編集室の外間隆史さん。独自の感性で作り上げる世界には不思議な透明感が。そして挿絵の版画作品には柳本 史さん。シンプルなタッチで描かれた雨犬の表情や青年の微笑みには独特の美しさが宿ります。「ぼくは雨犬、雨そのものもいいけど、雨の降る日が好きだ」。ひそやかに綴じられたこの一編の寓話のような書物をどうぞお楽しみください。(能邨)