そのものらしさでなく、そのもの自体を見てみたかったんです。
薮の中へ投げ入れて、この身体も押入れて。出会い直そうとしたんです。
するとどうでしょう。どうしても見たくない、自覚したくないものまで確認でき、ひどい口内炎ができました。甘かったと思いました。(中略)
進もうとすることと、逃げようとすることは、とてもよく似ているんですから。
ただ私は、薮に入って、そこに居てみます。人生に必要な過程だと思ってしまったからです。そういう勘はあります。(著者コメント)
シンガーソングライター・折坂悠太初の著書となる一冊。
叔母の葬式のため郊外で待ち合わせるとある姉弟。火葬場へ向かう道中、お互いの近況や生活の様子などを話しながら歩き、自身たちが育ってきた家族感に対し感覚のずれを抱いていることに気づきます。そんな中、姉弟の前に突如あるものが現れ…。短編小説「薮IN」をはじめ、エッセイや童話、論考、対話など折坂悠太が様々な形で書き下ろした文章を収録。イ・ラン(音楽家・作家)による小編、坂口恭平(画家・音楽家)によるエッセイ、塩田正幸(写真家)の写真をも収められたオムニバスブックとなっています。文章や項目ごとに異なる紙質やフォントの配置を施すといった繊細で洗練された造本もうつくしい、小ぶりでありながらもしっかりとした存在感を纏う一冊です。