自分の外に「世界」はとりとめなく拡がっている。だからこそ、世界の輪郭がどのようにできているかを、自分の足で出向いていって確かめたかった。（あとがきより）

消えゆく蒸気機関車をカメラに収めたい− それをきっかけとして、まだ小学生の頃から日本中への旅を始めた一人の少年。山陰、北海道、東北、沖縄…。本書では、作家・黒川創が幼き日の旅を追想すると共に、その膨大な記録から浮かびあがる70年代日本の鉄道風景や各土地の風土を自身の見聞を元に語り下ろします。時に夜行で時に船で、ただ一人見知らぬ土地へと赴くローティーンの自我と内なる風景。そこには何があったのか？　残された記録と自身の記憶を交錯させながら進む文体から立ちのぼる、旅への熱に浮かされた一人の少年の青春と孤独。当時の詳細な乗車記録と並走しながら回想される旅先での風物や出会いの描写には独特の叙情がにじみ、彼だけの心に映る世界に読む者は引き込まれます。少年の目から見た風景を半世紀後に思い返しながら綴る異色の紀行文であり、世界と己を対峙させたある若者の思想の軌跡でもある本書。想像を超えるその行動力の範囲に圧倒されつつ、共に旅路へ。