そういえば子供のころ、阪神が負けると泣いたりしていたけれど、あれも「愛」だったのだろうか。(本文より)
ああそうか。自分は、自分の「中の人」が、こんなふうにべらべら喋るのが聞きたくて、文章を書くんだな。(本文より)
漫画『あたしンち』の共作者であり、著者・けらえいこさんの夫でもあり、俳人でもある上田信治さんによる初のエッセイ本。
演奏家の指をつい心配してしまう話、刺身と醤油の関係性、キムタクのものまね、妻が共有してくれたおもしろい猫の動画、だれかに対し発される命令系の言葉について、「愛」とは、「悪」とは、「幸福」とは、「大人」とは、…。見過ごしてしまいがちな日々の暮らしの中に散らばるいくつもの仕草やディテールに対する深い思索と、それらに向けられた眼差しにより抽出された「成分」が59編並びます。上田さんや他俳人たちが綴る俳句を交えながらも紡ぎ出された、短くも身体に染み込んでくる文章たちに思わずするするとページを進めてしまいます。マヨネーズの造形を模った、静かに佇む空押しが施された装丁も美しい一冊。