食事のまえには、かんぱいをしてくれたわ。
スイカの香りのする水で、
「『ようこそ、海のアトリエへ!』って」
部屋に遊びに来たわたしに、紅茶を飲みながらおばあちゃんが聞かせてくれたおはなし。それはおばあちゃんが少女だったころの、特別な思い出。海辺のアトリエにひとりで暮らす絵描きさんと過ごした夏の日々のことでした。少女はある夏の1週間をそのアトリエで、大きな画集や写真集をひらいたり、しずかな朝の浜辺で泳いだり、絵を描いたり、絵を描いている絵描きさんを見たりして過ごします。少女の心は、絵描きさんとふたりでながめた海や、風や、地平線のように、どこまでも伸びやかに広がってゆきます。少女そしておばあちゃんにとってその日々は、いつまでも忘れたくない思い出でした。おばあちゃんはわたしにこう言うのです。
「このことをずっとおぼえていたいって、そんな日が、きっとあなたをまってるわ」
著者・堀川理万子さんの実体験をもとにした、映画のシーンを駆けるような美しい絵本。