彗星菓子手製所。この不思議な名前を持つ和菓子作家から生み出される詩情と叙情あふれる菓子は、時に見たこともない遠い場所へ、あるいは懐かしい景色へと見る者を誘ってくれます。「春のこゑ」「拝啓、ヴィクトリア女王様」「種を蒔く」「軒先きにて」「驟雨」…。特有のニュアンスが込められた名付けも美しく、その清らかで華奢な風情は独特の物語に満ちているかのよう。ひとつひとつのテーマもユニークで、クノーや梶井基次郎らの文芸作品に触発された菓子たちも読者の想像力をかきたてます。本書では、星の欠片のような数々の創作和菓子が59点紹介されており、翳りを帯びた大沼ショージさんの写真もその魅力を存分に伝える美しさ。季節の移ろいだけでなく、記憶の中の光景や一瞬の心のゆらぎまでもを、小さな菓子の姿に込めて。まったく新しい感性とひそやかな知性で創り上げられる無二の菓子の本をお楽しみください。それぞれの菓子への言葉、そして巻末にまとめられた著者の短いエッセイも豊かな味わいを備えています。