岩手県沿岸部に位置する釜石市。東日本大震災と押し寄せた津波により大きな被害を被ったこの土地に、2017年に竣工した市民ホール「TETTO」。本書は、この市民ホールの工事の始まりから終わり、その後の日々までを255点に及ぶ写真とテキストで描き出した一冊です。
地盤への杭打ちに始まり、鉄骨、配筋、コンクリート、設備、外装、内装へといたる2年に及ぶ工程を、作業員たちの仕事ぶりや近隣住民の表情なども交えながら丹念に映し出します。迎えるこけら落としの日や、その後も日常的に市民の「広場」として機能するその佇まいなども収め、ひとつの公共建築が町の風景となるまでの日々を記録した貴重なドキュメント。建物にフォーカスする一般的な建築写真とは異なり、物語を描くように移りゆく風景と人との関係性を柔らかいまなざしを持って捉えたのは『庭とエスキース』の著者でもある写真家、奥山淳志。町に「光を灯す」ようにとの思いで本ホールのデザインに取り組んだ建築家・ヨコミゾマコトによる設計ノートも収載します。
構想から着工、竣工からその後の日々まで、建築を取りまく人々と時の流れを含み込んだ重量感あふれる美しい作品集。400部限定。(涌上)