女優であると共に暮らしを大切にする一人の女性として、その美意識や感性を文筆でものこしてきた高峰秀子。こちらは60歳の頃に発表した、その「物を見る目」をいかんなく発揮した随筆集です。風呂敷、水差し、帯、小引出しに慰問袋まで、その眼鏡にかなった60あまりの品々は、ただ美しさや便利さだけではなく、それ自体が持つ魅力を持ち主自身が愛し理解し、日常の中にごく自然に取り入れてきた、そんな「生かされた物」としての風格を備えているような気がします。実際に使用していた物から、食や旅の体験など形に残らないものまでも綴られた、著者の人生の重みや輝きを封じ込めた宝箱のようなエッセイ集。これ以前に出された『瓶の中』とある程度の品と文章は重複するものの、こちらでは数を増やし、より多くの「物」の魅力に焦点を当てています。当店でもロングセラーの本書は、物への慈しみと人生への愛情にあふれた、独特の気品と粋に満ちています。