1960年の刊行以来、本書はどれだけの親に読まれ参考にされ、そしてその名文で疲れた心を癒し楽しませて来たでしょうか。このささやかな新書は、小児科医・松田道雄による子育て本の古典にして、稀代の文章家による異色の赤ちゃん連作小説とも言えます。「私」なる一人の赤ん坊の視点から、若い両親との団地での生活や赤ちゃんとしての心情と成長を語ったスタイルは、子育ての指南書でありながら、フィクションの読み物としても面白く、赤ちゃんを育てる悲喜交々を色んな角度から味わえるユニークさ。背景となる時代や医療事情はさすがに今とは異なりますが、子を育てるという行為と精神、そして赤ん坊という存在の美しさやそのまっさらな気持ちはなんら変わるところはありません。軽い文体の中に深みをもってそれらがしっかりと描かれているからこそ、本書は長く読み継がれ、今もなお愛され続けるゆえんとなっています。とにかく「私」の持つ愛らしい感性と視点に読者も思わず微笑まずにはいられないでしょう。当店の子育て本の中でも、ロングセラーを誇る名著です。