ジョイスが愛する孫に贈った短い創作であり、彼唯一の童話であるのがこちら。フランスに伝わる話として、ある策略をめぐらす悪魔とそれに猫を使って対抗する町の人々が描かれていますが、猫好きだったジョイスらしい微笑ましい内容と、その独特の言語感覚の発露とがあわさった魅力ある作品。 ローズの絵も素晴らしく、また「ユリシーズ」の訳者でもある丸谷才一が精魂こめて訳し出した言葉も絵本の枠を超えて豊かな風味を醸し出しています。ちなみにこちらは「歴史的仮名づかい」で訳されていますが、巻末には訳者自身による、なぜそうでなくてはならないのかを説く熱い文章も寄せられ、ジョイス、ローズ、丸谷とユニークな個性が集った魅力と迫力ある一冊となっています。特に目立つダメージはなく、古書として標準的な状態です。
著者:ジェイムズ・ジョイス、絵:ジェラルド・ローズ、訳:丸谷才一 / 出版社:小学館 / 220mm × 286mm / 40P / ハードカバー / 1976年初版発行