主人公はどれも平凡で生真面目、そんなごく普通の男たちの身辺を描いた小説集。サラリーマン、プロ野球、晩酌、夫婦…昭和を生きた勤め人たちの平板な生活の中に生まれる小さなさざ波を求めて読み進めば、いつしか作者一流のペーソス溢れる人生劇場に引き込まれます。もうひとつの本書の特長は、表紙を担当した伊丹一三(十三)の存在。麦わらをかぶり自転車をこぐ男のシルエットが真っ暗な表紙に浮かび、その独特のスタイリッシュさが魅力、カバーをめくった本体の装丁も素敵です。昭和40年刊行というまさに戦後のど真ん中から放られたシブい一冊。ダストジャケットの上部擦り切れあり、小口や見返し等にも経年相応のシミがありますが、本文を読むには問題はなく古書として標準的な状態です。