あんパンとクリームパンしか売っていないパン屋に、初子さんは下宿している。
店主が不器用であんパンとクリームパンしか焼けない。
-「初子さん」冒頭
学校を卒業してすぐに裁縫の職人として働きはじめた初子さん。
行き届いた丁寧な仕事ぶりと、道具を大切に扱う職人気質な姿勢で生計を立てています。
ときにはパン屋の店頭に立ってお手伝いをしながら、日々ミシンを踏む暮らし。
夢を叶え自活するなかで、仕事を通して出会う町の人びとの営みに、ふと感じる孤独や焦燥。何気ない日常の中にも、さまざまな生活のかたちがあり、それぞれの人間模様がやさしく浮かび上がります。人という存在のいとおしさを、あらためて感じさせてくれる一冊です。
そのほか、「うつら・うつら」、そして単行本初収録となる「まっ茶小路旅行店」の全3編を収録。
エッセイの名手として知られながらも、エッセイ集としての単著がこれまでなかった赤染さんの作品を大切に編み直し、『じゃむパンの日』を発行した palmbooks による刊行です。『じゃむパンの日』で赤染さんのことを知った方にも、此度の小説集はぜひ手に取っていただきたい一冊です。(原口)
◼︎収録作品
「初子さん」 文學界新人賞受賞デビュー作
「うつつ・うつら」
「まっ茶小路旅行店」 単行本初収録
◼︎著者プロフィール
赤染晶子 (アカゾメアキコ) (著/文)
1974年京都府生まれ。京都外国語大学卒業後、北海道大学大学院博士課程中退。2004年「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞。2010年、外国語大学を舞台に「アンネの日記」を題材にしたスピーチコンテストをめぐる「乙女の密告」で第143回芥川賞を受賞。著書に『うつつ うつら』『乙女の密告』『WANTED!! かい人 21 面相』がある。2017 年急性肺炎により永眠。
著者:赤染晶子
発行:palmbooks
サイズ:178mm × 128mm
その他:192p / 並製本