だから散歩から帰ってくるたびに、私は前と違う人になっている。
賢くなるとか善良になるという意味ではない。「違う人」とは、詩のある行に次の行が重なるのと似ている。
目に見える距離は近いけれど、見えない距離は宇宙ほどに遠いかもしれない。
「私」という長い詩は、自分でも予想できない行をいくつもくっつけながら、ゆっくりと作られる。
(「散策が詩になるとき」より)
詩を読み、散歩を愛し、老いた猫と暮らす韓国の詩人、ハン・ジョンウォンさんによるエッセイ集。目にうつり、指先で感じるひとつひとつの些細な存在を手放さず、見つめ、愛でる。まぶたが閉じる音や、季節の訪れと共にあらわれる光までも。毎日違う道程をたどり、ときに遠い記憶を手繰り寄せながら、丘の肌にやさしく降り積もる雪のように、紡がれ、重なりあっていくことばたち。静謐の中に浮かび上がる透明な感情と、言葉と言葉の間に生まれる風景にじっくりと目を向けた25章を収録した美しい一冊。(韓)
著者:ハン・ジョンウォン
出版:書肆侃侃房
サイズ:B6変形
その他:152P / ソフトカバー / スピン付き