終点は濡れたる土のひろがりぬ後ずさりして向き変えるバス
珈琲の粉の黒きにほそほそと湯を垂らしおりまだ書く夜は
あけがたの眠りのなかに遠くより音ひきずりて電車は来たる
京都の歌人、吉川宏志氏が365日に渡って詠み続けた歌と短い散文。それらが一冊にまとまりました。タイトルの「叡電」とは左京区の真ん中を走る単線の小さな電車・叡山電鉄のこと。吉川さんが住まうのは当店も位置する「一乗寺から修学院のあいだ」と言うのですから、まさにその「ほとり」というにふさわしい立地から毎日作り出された歌が、軽やかに時にしみじみと伝わってきます。添えられた文でより歌を知り、歌によって文をさらに楽しめる。地元ならではの歌もあれば、ひろびろとした歌もあり。一首一首がまるで短い絵葉書のように読者に届く、ふらんす堂の「短歌日記」シリーズの最新作です。ハンディなサイズとシックな装丁もともに魅力。