霧のなかに潜み、霧に柔らかくつつまれ、霧とともに豊かな共感覚を開きながら生き、思考すること──。
同時代の世界に生起するさまざまな出来事を見つめつづけてきた文化人類学者・吟遊詩人である今福龍太さんのエッセイ集がみすず書房より刊行いたしました。
あまりにもすべてのものが露呈され、可視化されてしまった現代社会。このテクノロジーと権力による衆人環視の状態から、私たちが自らを解放し、親密さと謎を守り、また権力へのしなやかな抵抗を日々実践するための「霧のコミューン」という未来について、著者の代表作となりうるような1冊です。
詩の引用と共に語られる数々は、<詩>のことばがいかに美しく大事なものか、見えているものを見るために、見えないものを見る力がいかに逞しい力であるか、大らかに生きながらも、その文化存在を断絶されないために、他者と共に生きるために。気象現象としても、比喩としても、「霧」はこれからの世界を私たちが自由とともに生きるためのキーワードなのかもしれません。(原口)
目次
緒言
Prologue 小鳥もカタルーニャ語でさえずる街で バルセロナ 叛コロナ日記
I 負のメフィストフェレス 広島のバラク・オバマ
〈対岸〉からの思想的挑発 フアン・ゴイティソーロ追悼
II 遠漂浪(とおざれ)きの魂、震える群島 石牟礼道子の億土から
アジアのなかの沖繩 川満信一への手紙
III 微気象のくにで すべてのグレタ・トゥーンベリに
マスクの時代の仮面 問いつづける身体のために
IV 霧のなかのルイーズ・グリュック 寡黙な声のコミューン
〈白い日〉と歴史 戦火から遠く離れて
Epilogue 霧のコミューン 生成と予兆
Coda 希望の王国
-みすず書房より