もしピノキオは生きたくなかったら?男の子になりたくなかったら?…でも、それはなぜ?
本書は童話「ピノキオ」を土台にした、アメリカの作家レベッカ・ブラウンの掌編です。心優しい人形職人のゼペットは木の人形を作りました。彼は、人形に生きてほしかった。でも、人形は生きたくはなかった。理由はありません。嘘をついて鼻が長くなったり、意地悪な狐にだまされたりする事のない人形。ゼペットの一途な愛もまた、理由はないのかもしれません。愛の行方を探したくなるような作品。
絵を担当したのはマチズム的表現に違和感を感じ、制作しながらフェアミニズムについて思考を続けるカナイフユキ。
輪郭線のない形、やわらかな表情、落ち着いたトーンでゼペットの愛情に寄り添います。
巻末に原文掲載。
・柴田元幸氏サイン入り
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【柴田元幸氏による解説】
レベッカ・ブラウンの「ゼペット」(“Geppetto”)は、2018年に刊行されたNot Heaven, Somewhere Else: A Cycle of Stories(『天国ではなく、どこか別の場所 物語集』、Tarpaulin Sky Press刊、邦訳なし)に収められている。この物語集には、「三匹の子ぶた」を踏まえた“Pigs”、「赤ずきんちゃん」を踏まえた“To Grandmother’s House”をはじめ、ヘンゼルとグレーテル、ハンプティ・ダンプティなど、さまざまな伝統的物語やキャラクターがレベッカ流に語りなおされた物語が並んでいる。語り直しの切り口は作品によってさまざまで、単一のメッセージに還元できない、豊かな「サイクル」が出来上がっている。100ページに満たない小著だが、怒りと希望をシンプルな文章で発信しつづけるレズビアン作家レベッカ・ブラウンの神髄が伝わってくる。
「ゼペット」は厳しさと優しさが並存していて、中でもとりわけ味わい深い。
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(原口)