海外を拠点とする小説家や詩人や翻訳家が数か月滞在しながら、執筆やリサーチに専念することができる環境を提供する「京都文学レジデンシー」の継続的な実施を目的に発足した「京都文学レジデンシー実行委員会」による紙上の文学交流『TRIVIUM』。誌名には、三叉路のような場所に文化が出会うこと、リベラルアーツの基礎となる文法学・修辞学・論理学の三学の意味、鴨川のY字のイメージ、四季折々の水辺の風景を求めて人々が集うシンボルとしての鴨川デルタ、など様々な意味とイメージが重ねられています。
コロナ禍直後に書かれたテジュ・コールのエッセイを冒頭に、世界中の書き手に「感染/ディスタンス」という共通のテーマで投稿を呼びかけ寄せられた様々な形式の文芸作品、円城塔・福永信・澤西祐典の三者が鴨川が登場する文芸作品を読み鴨川をモチーフにした文芸作品を書く試み、マーサ・ナカムラと谷崎由依がイギリスの若手詩人とのあいだに交わした往復書簡などを収めます。小磯洋光、藤井光らが複数のテキストの訳者をつとめ、「鴨川ランナー」で第2回京都文学賞を受賞したグレゴリー・ケズナジャットは10年を過ごした京都をエッセイで案内、そして美術家・写真家の大坪晶による京都のある邸宅にまつわる作品と論考が掉尾を飾ります。世界の文芸の担い手たちの交流拠点としての「京都」の可能性を大いに感じさせる瀟洒な一冊。(涌上)