2021年3月に逝去したブックデザイナー、平野甲賀さん。立ち上げ初期の頃より晶文社のほぼ全ての書籍の装幀を手がけ、その手描きの題字や著者名はいまも本屋の棚や個人の蔵書などいたるところに当然のようになじみ、そして新たな読み手に出会い続けています。
本書は、2020年に刊行された描き文字の画文集『平野甲賀と』の第2弾として、追悼を込め企画・編集された一冊。似顔絵のようにその人を表す名前の〈描き文字〉、六月劇場や水牛楽団、そして妻の公子さんとともに設立・運営したシアターイワトでのデザイン、震災後移り住んだ小豆島、展覧会が行われた台湾や中国。ご本人の文章もまじえながら、それぞれの現場に立ち会ってきた人々が個人的な平野甲賀との思い出を綴り、そのテキストの合間には、晶文社時代の装幀から晩年のポスター仕事、そして膨大な描き文字作品までを収録します。一人の芸術家の歩みを賑やかに軽やかに親密に振り返り、今もそこにいるかのようにともにその時間を懐かしむ。偉大なデザイナーの仕事の一端を垣間見る作品集でありながら、爽やかな風が吹くように心に残る追悼本。(涌上)
〈執筆〉吉良幸子、村岡俊也、伊藤与之江、八巻美恵、高橋悠治、立山ひろみ、大塚一歩、大河久典、平野公子、平野甲賀