エミリ・ディキンスンは、今やアメリカを代表する詩人の一人として、アメリカ文学史上の奇跡とも言われる天才詩人ですが、生前は無名でした。
彼女の紡いだ力強くも清冽な詩の数々と関係するのでしょうか、生前は生家から出ることはほとんどなく、ある時期からは終日白いドレスを着て家にひきこもり、人々との交流もほとんど無かったとされています。彼女自らの手を通し発表された詩作は僅か。多くの詩は、彼女がこの世を去ってから発見されました。
「彼女はプロの詩人でも、アマの詩人でもない。他の女性が料理や編み物をするのと同じように飽きもせず、個人的な詩を書いていたのである。彼女の言葉を使う天賦の才能や彼女が生きた時代の文化的な苦境が、彼女を、背もたれカバー作りではなく、詩作に駆り立てたのである。…」エミリ・ディキンスンの詩作について、アメリカの詩人、アレン・テイトの言葉です。
-「エミリー・ディキンスン論」 『ディキンスン詩集 海外詩文庫』 訳/新倉俊一 思想社 1993年
本書は2008年刊版『わたしは誰でもない』を改訂増補した新版で、ごく短い詩を80篇、英文と日本語訳を掲載しており、型にはまらない英詩の数々に対し、現代の人にも親しみやすくと川名澄さんが現代風に訳されています。可憐な装丁とともに、言葉の可能性の詰まった詩集です。(原口)