雑誌や広告でイラストレーターとして活躍する一方、2016年ごろから画家として抽象画を描いてきた、林青那(はやし・あおな)。無意識に自らをあずけ、ひたすら手を動かすことで生まれるのは、墨の深い黒、衝動的な線、丸や三角といったプリミティブな形からなる「図」の数々。意味やメッセージではなく、自分の原始に向き合うことで生まれる抽象画は、目にする者にも「ただ見る」ことや「ただ感じる」という純粋で自由な意識をもたらします。
本作は、林青那の画家としては初となる作品集。年代やシリーズをあえて分類せず、大胆に拡大やトリミングを施したレイアウトにより、その作品に宿る躍動感と静けさを同時に感じることができます。富山の山田写真製版によるモノクロ印刷により、3つの版を製作しそのいずれもに黒のインクを使用する「トリプルブラック」という技法を用いることで、濃淡や筆のかすれ、墨絵に劣らない力強い奥行きある黒の世界を忠実に再現。黒の艶箔を全面に押したカバー、大判スクエアのクロス装など、力強さと静けさを同時に反映したブックデザインも美しい。デザインは、Baci刊行物では安西水丸『ON THE TABLE』も手がけた前田晃伸。見る喜びと同時に飾る喜びもあるアートブック。(涌上)