「筑摩書房はわが国の装幀文化が、分野を問わず広く門戸を開いてきたよき伝統を体現してきたのであり、まさにその歩みは、装幀文化の縮図であり、みごとな見取り図だといってよい。実際、私はこれほどのロールモデルをほかに知らない」(著者序文より)
本書は、昭和15年に創業し良書を世に送り出し続けてきた筑摩書房、その装幀の歩みを俯瞰した一社の装幀集としては異例のボリュームを誇るブックデザイン集です。同社のマークを制作した青山二郎を筆頭に、恩地考四郎、吉岡実など独自の美意識に支えられた初期からの装幀をはじめ、現在に至るまで多様多彩な書物にあわせて数多くの魅力あるカバーを生み出し続けたこの版元を装幀から眺めることで、特異な位置を築いてきたその出版精神をなぞることも可能でしょう。玉石混交の書物があふれ、デザインもハンドワークの時代からDTPへと移行する中でも輝き続ける書影をつくるには。本書がその道筋を一本示してくれているような気がします。時代時代の文化をあらわす本の顔、というものを考えるにあたり、最適な版元の最良の装幀集をこれもまた美しい造本でお届けします。著者は「デザイン」誌で編集長もつとめた臼田捷治氏。小さいながらも書物文化を伝え続ける版元・みずのわ出版からの刊行というのも魅力の一冊です。